優しい雨


ほら、入っていくといい

<2005年4月画 (「ファインドアウト」2005年6月号掲載・表紙まであと一歩)>

 6月ということで、雨の絵を。
 雨の日は光が弱いので、影に入れる色も弱めに。雨に濡れた部分の服の色を濃くして、濡れてる感じを出してみました。濡れている部分と度合いから、時間の経過と物語が感じられるように…(少年の方はびっしょり濡れて、長時間雨にさらされていた感じを。方や青年は、肩だけ濡らして、今までは傘に入ってて濡れてなかったけど、少年を傘に入れてやって、肩口に雨が当たり出した感じを)。
 雨水のはねやけぶりの様子は、水分をある程度切った筆に、ほとんど溶いていない白のポスターカラーをつけ、パレットの上でねじって筆先をばらし、細かな点を打っていきました。
 あーー、傘の柄が長すぎたのが後悔ですね(笑)。


 ↓以下、三国志混じりのプロット語り。

 モデルは、三国志(正史)呂蒙伝に出てくる、呂蒙と同郷の側近の兵卒。219年(建安24)、呂蒙が荊州(南郡)を占拠した後のこと。官の所有物の鎧が雨に濡れないようにと、この兵卒は民家の笠を取ってかぶせたのですが、これが原因で斬刑に処せられたんですよね。
 荊州占拠後、呂蒙さんは略奪行為を厳しく禁じてました。この兵卒が民家の笠を取ったのも、たとえ一枚の笠とはいえ、略奪には変わりない。ためにこの兵卒は、涙ながらの呂蒙さんの命令で斬刑、ということになってしまうんです。

 この兵卒だって、略奪のつもりはなくて、鎧を濡らしてはいけないという心遣いから、民家の笠を取ってしまったんですよね。この兵卒の心遣いに敬意を持って描きました。

 たった笠一枚で…とも思いますが、彼が斬られたことで呉の軍律は引き締まり、結果的に敵である関羽軍の士気を著しく低下させ、ついに関羽を捕らえるまでに至ったんですよね…この兵卒の死は、決して無意味ではなかったと思います。


 そして蛇足ですが、この話は水滸伝で宋江(主人公・梁山泊の一番の親分)が朝廷の招安を受けた後、悪い役人を斬ってしまった部下を陳橋駅で斬る話に似ている気もします(83回)。諸葛孔明の「泣いて馬謖を斬る」にも似てますが、どちらかというと呂蒙のこの逸話の方に似てる気がする。



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