程嬰
ていえい




*   *   *

公孫杵臼が程嬰に訊ねた。
「死ぬことと、御子を守り育てること、どちらが難しいか」
「御子をお育てする方が難しい。死ぬことの方が容易い」
「では、簡単な方をやらせて貰おう」
「……」

程嬰は公孫杵臼を見つめた。
「…必ず吉報を齎そう。先に待っていてくれ」


公孫杵臼は死んだ。
そのお蔭で、趙氏を根絶やしにした仇敵の目をごまかすことができた。
程嬰は、趙朔の遺児―趙武という―を育て上げた。

趙武は後、晋での復権を果たした。
見届けた程嬰は静かに趙武に言った。
「杵臼に、これを報告しないといけません」

微笑して、程嬰は剣に伏した。


*   *   *




参考: 宮城谷昌光「月下の彦士」(『孟夏の太陽』所収)
<2006年12月>



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