士燮

士燮
ししょう

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エン陵で楚に勝利。この事実は晋君・厲公を上機嫌にさせた。
が、驕慢な君がさらに驕慢になったかと思うと、暗澹とする。
外患を退けた者たちの目は、今度は内に向かって光るであろう。
そうなれば、先にあるのは晋国内の禍乱でなくて何であろうか。
エン陵から戻った士燮は、己を呪詛するよう祝宗に命じた。
禍乱に遭うくらいなら、死した方が己の福である、と。

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参考：　『史記』晋世家　／　『春秋左氏伝』　／　宮城谷昌光『子産』
＜2008年6月＞

士燮。士会（范武子）の子。范叔、范文子ともいう。
相変わらず自分のアバウトな左伝メモ（汗）によると…
■鞍の戦い（vs斉／BC589）では上軍の佐。欒書はこの時下軍の将だったが、
この後郤克が引退すると一気に中軍の将（＝執政）に昇進している
■麻隧の戦い（vs秦／BC578）の頃は上軍の将。ちなみにこの時、
中軍の将＝欒書、佐＝荀庚／上軍の将＝士燮、佐＝郤錡／下軍の将＝韓厥、佐＝荀オウ
■エン陵の戦い（vs楚／BC575）では中軍の佐。ちなみにこの時、
中軍の将＝欒書、佐＝士燮／上軍の将＝郤錡、佐＝荀偃／
下軍の将＝韓厥、佐＝荀オウ／新軍の将＝郤シュウ？、佐＝郤至（＊荀オウは留守番）

エン陵の戦いの前から、士燮は楚との戦いに消極的だった。
もし外患を除けば、今度は内患が頭をもたげるに違いない…内患を大きくするくらいなら
外患をそれとして残しておいた方が晋にとってマイナスは少ない、というのが士燮の意見（だと思う；）
が、欒書は「今（晋に背いた鄭を見過ごして）諸侯の信頼を失うわけにはいかない」と、断固出陣を望んだ。

苗賁皇の策により、晋はエン陵で楚・鄭連合軍を破り、楚の共王は目に矢を受けて撤退した。
しかし、この勝ちに厲公はのぼせ上ってしまう。
士燮は、君が驕慢であるのに勝ったのはこれから天が禍を下すからだ、
禍を蒙る前に死にたい、と言い、晋に帰ると祝宗（祈祷官）に自らの死を祈らせた。
翌年6月、士燮は死に、郤氏の滅亡・厲公弑逆を見ずに世を去った。

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士燮の言動は、時々捉え難いものがあるのですが、
とにかく、慎重すぎるまでに慎重だというのはひしひしと感じます。
おそらく、父（士会）に処世術を叩きこまれているんじゃないかな、と、思う。

士燮が、朝廷で秦の使者の出した謎を三つも解いた、ということを士会に言うと、士会は
「他の大臣が黙っていたのは、目上の者に譲っていたからだ。お前は三度も
年長者を愚弄したのだ！」と言って、士燮の冠の笄が折れるまでしたたか叩いた…
…この話から、士会が他者の憎しみの矛先を受けないようにしていたのが窺えるし、
士燮の行動から彼も士会のような慎重な考え方をしていたのが窺えると思いまする。

周囲と波風を立てずに己を全うする術を叩きこまれた士燮は、
エン陵の戦いの後、自分が禍乱の渦から逃れ得ぬことを悟って、自らの死を祈らせたのでは。
欒書・荀偃が厲公を弑する際、士燮の子・士カイが、弑逆に手を貸せと声を掛けられてますし。
もし士燮が存命だったら、弑逆の誘いを受けたのは士燮だったはず。

あるいは、欒書・荀偃と同様、胥童らの脅迫を受けて命を奪われかけたり、
助かったにしても、欒書らと同様に額を地につけて厲公に助命の恩を謝すことになったかもしれない。
左伝の成公16年（＝BC575、エン陵の戦いがあったのと同じ年）、魯の叔孫僑如が、
「魯に季（孫）氏・孟（孫）氏があるのは、晋に欒氏・范氏があるようなもので…」と言っており、
范氏（士燮）が欒氏（欒書）と同様、晋で有力であった（と認識されていた）ことが分かる。
（当時士燮は第二位の卿なので、そう認識されるのも当然と言えば当然…？）
厲公が晋の有力者を排除したいと考えていたならば、士燮もその対象となり得たと思われる。
宋の蘇軾は「士燮論」という文章の中で、「もし士燮が死ななかったなら、厲公は野心を逞しくし、
必ず最初に范氏を標的にしたであろう」といったことを言っている。
（原文「使其不死、則厲公逞志、必先図於范氏」）

士燮を一言で言えば、清すぎる人、といった印象です。

…ものすごく堅苦しい人だけど、エン陵の戦いの前に、余計な事を言った息子の士カイにキレて
戈をかざして追いかけまわす場面は、普段の士燮に似合わずアクティブで
ちょっと微笑ましかったな…(笑)。

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