争報恩三虎下山 (作者不明)


■主な登場人物■

◎関勝:下界の様子を探るべく下山するが、金がなくなり帰れなくなる。李千嬌に最初に助けられた好漢。
◎徐寧:関勝を迎えに行くが、病気になって宿から追い出されてしまう。こちらも李千嬌に助けられる。
◎花栄:関勝・徐寧を迎えるため下山する。李千嬌に会うが、これが大きなトラブルの引き金になってしまう。
◎宋江:梁山泊のボス。
(◎呉学究:徐寧の台詞の中に名前のみ見える。)

◎李千嬌:趙通判の第一夫人。しっかりした女性。関勝・徐寧を助ける。
◎王臘梅:趙通判の第二夫人。家働きの丁都管とできている。
◎丁都管:李千嬌の付き人。にもかかわらず、この家の第二夫人の王臘梅といい仲になる。
◎趙通判:済州の役人。王臘梅に言いくるめられ、李千嬌をあやまって訴え出てしまう。
◎金郎・玉姐:趙通判(と李千嬌の間の?)子供。



■楔子■  正旦:李千嬌
 宋江は毎月一人の頭領を近くの東平府に下山させて情報を集めていた。
 ある月、大刀関勝を下山させたが期限までに帰らず、金槍教手徐寧に関勝を迎えに行かせたが、これまた帰ってこない。そこで宋江は弓手花栄を下山させ、二人を迎えさせることにした。
 さて、権家店というところに、これから済州に向かおうとする趙通判一家が宿をとっていた。彼は大夫人の李千嬌、第二夫人の王臘梅、李千嬌の付き人の丁都管、金郎・玉姐の二人の子供を伴い、赴任先に行く途中なのだ。しかしこれから先は、かの梁山泊の辺りを通らねばならない。そこで趙通判は単身先行し、安全を確かめてから家族を迎えることにして、早速旅立った。かねてからねんごろになっていた王臘梅・丁都管は「邪魔者」がいなくなるや、会って酒を飲むことにした。
 実はこの権家店に、かの関勝がいた。彼は下山して病気になり、なんとか癒えたものの金がなくなってしまった。そこで一匹の犬を盗み、煮て売り歩いていたのだ。関勝は丁都管たちを見かけ、犬の肉を売ろうとする。が、丁都管らが文句を言うので、関勝は怒って丁都管を殴り倒す。皆は丁都管が死んだと大騒ぎ。李千嬌も王臘梅に呼ばれてその場へ駆けつける。
 李千嬌が関勝の身の上を質すと、梁山泊の関勝だと言う。この男を殺してしまえば、仲間の宋江たちが黙ってはいまい――そう考えた李千嬌は関勝に金釵を渡し、義兄弟の契りを結んで逃がしてやる。その後になって殴られた丁都管が起き上がる。彼は死んではいなかったのだ。
 王臘梅と丁都管は場所を稍房(小さな建物か)に移して酒を飲みなおすことにする。



■第一折■  正旦:李千嬌
 さて、徐寧もまた権家店にいた。彼も病気になって宿で療養していたが、金が無くなって追い出されてしまった。
 夜になり、宿が無いので、ある家の稍房に入り込んで勝手に休んでいた。そこに王臘梅と丁都管が丁度入ってくる。徐寧は賊扱いされて二人に捕らえられてしまう。王臘梅はまた李千嬌を呼ぶ。李千嬌が徐寧の身の上を尋ねると、これまた梁山泊の頭領。彼女は徐寧を、従兄弟の徐勝ということにして王臘梅・丁都管を言いくるめ、徐寧に金釵を渡して元手にさせ、逃がしてやる。



■第二折■  正旦:李千嬌
 それからしばらく経ち、李千嬌らは趙通判に迎えられて済州に来ていた。
 その家の庭に、役人に追いかけられた花栄が逃げ込み、身を隠す。庭には丁度李千嬌が居て、いくつか願い事をしていた。花栄はその三つ目、「天下の好漢が縄目に遭いませんように」というのを聞いて感心し、すでに部屋に入ってしまった李千嬌の名を聞こうと、その門前で足を踏み鳴らす。てっきり夫の趙通判が来たと思って李千嬌が門を開けると、入ってきたのは見知らぬ大男。びっくりしたが、梁山泊の弓手花栄と名乗るので、義兄弟の盟を結ぶ。
 と、丁度外にいた王臘梅と丁都管がその話し声を聞き、李千嬌が間男を引き込んでいると趙通判に告げる。通判も男の声を確認し、李千嬌の部屋の門を破る。驚いた花栄は趙通判に刀傷を負わせて逃げる。
 趙通判は怒り、王臘梅にたきつけられて李千嬌を役所に訴え出てしまう。李千嬌は姦通した罪で死刑囚となってしまった。



■第三折■  正旦:李千嬌
 李千嬌が捕らえられたと知った関勝・徐寧・花栄は、それぞれ宋江に頼んで期限をもらい下山していた。
 ある粥屋で三人は落ち合い、李千嬌に受けた恩をそれぞれ語り、彼女を救うことにする。
 斬首の刑と決まった李千嬌が土壇場に引き据えられると、三人は「梁山泊の好漢の勢ぞろいだ!!」と叫んで刑場に乱入し、李千嬌を救い出す。関勝は李千嬌を伴って梁山泊に赴き、徐寧・花栄は趙通判や王臘梅ら李千嬌の家族を追いかけていく。



■第四折■  正旦:李千嬌
 先に帰りついた関勝は李千嬌の無事を祝って酒を勧めるが、彼女は「子供と仇に会うまでは酒は飲めない」と言う。そこに徐寧が子供を、花栄が王臘梅・丁都管・趙通判を連れて現れる。李千嬌は子供にあって喜ぶ一方、仇の三人を見て腹を立て許さないと息巻く。
 しかし趙通判は花栄を間男と勘違いしてしまっただけで、もともと罪はない。これを心得ている花栄は趙通判を許してやるよう李千嬌に頼むが彼女は聞かない。「趙通判を許さないならば二人の子供を殺してしまいますよ!」と花栄が脅迫して、やっと李千嬌は通判を許し、元通り夫婦として暮らすことになった。
 関勝らはこれを宋江に報告し、二人の淫婦姦夫を片付けることにして一件落着となった。



*補:
・梁山泊の様子。「忠義堂」に「替天行道宋公明」と書かれた「杏黄旗」が立っている(楔子)。
・三十六人の好漢は皆、天上の「悪魔星」に対応している(楔子)。
・宋江は「呼保義」とも呼ばれる(楔子)。
・小説『水滸伝』成立以前に成ったとされる現存の戯曲(詳細は「水滸戯ってどんなもの?」をご覧ください…)のうち、唯一晁蓋の名が見えない。
・関勝のあだ名は大刀。11位の頭領。25歳(楔子)。得物は大桿刀(第三折)。
・徐寧のあだ名は金槍教手(楔子)。12位の頭領。25歳(第一折)。得物は点鋼鎗(第三折)。
・花栄のあだ名は弓手(楔子)。13位の頭領。24歳(第二折)。
・この三人、皆あだ名に武器の名前が入っている。また、全員「大漢」と書かれており、皆大男らしい。
・徐寧と李千嬌の話は、小説『水滸伝』第14回、雷横に捕らえられた劉唐を、晁蓋 が甥ということにして引き取る話にやや似ている。

*現行の『水滸伝』では、関勝・徐寧・花栄は堅い軍人肌の好漢ですが、この劇では粥屋に入って食い逃げしてます(笑)。妙な言いがかりをつけて、金を払わずに出て行っちゃうんです。花栄は「金なんぞ持っていないわ!」なんて開き直ってますし(笑)。
 粥屋のほうも、まじめに商売してる訳ではなく、極力粥を薄くして儲けようとしてる奴なので、花栄たちの暴挙も憎めないものになっています。



劇名:
《テキスト》
1.元曲選=(題目)屈受罪千嬌赴法 (正名)争報恩三虎下山 (簡名)三虎下山
《劇名のみ》
1.録鬼簿続編=(題目)好結義一身繋獄 (正名)争報恩三虎下山 (簡名)三虎下山



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