魯智深喜賞黄花峪


★主な登場人物★
☆楊雄:下山したときに、蔡衙内に殴られていた劉慶甫を助け出す。
☆劉慶甫:済州の書生。妻の李幼奴を蔡衙内に誘拐され、梁山に救いを求める。
☆李幼奴:劉慶甫の妻。蔡衙内に見初められ、衙内にさらわれてしまう。
☆蔡衙内:好色の権勢家。李幼奴を力ずくで誘拐する。
☆李逵:烈火のような性格の好漢。李幼奴を救い出すため下山する。
☆魯智深:李逵を援助するため下山する。雲巌寺に逃げ込んだ蔡衙内をこてんぱんにして梁山泊に引き上げる。
☆宋江:梁山泊のボス。
☆呉学究:宋江の参謀役。宋江と一緒に登場するが、せりふを言う場面はない。



★第一折★  正末:楊雄
 草橋店の居酒屋に、泰山から帰る途中の劉慶甫・李幼奴夫妻が立ち寄り、仲良く酒を飲んでいた。そこに、土地の権勢家の蔡衙内もやってくる。蔡衙内は、隣から女(李幼奴)の歌声が聞こえてくるので、その女に相伴させようとする。夫である劉慶甫がその申し出を断ると、怒った蔡衙内に暴力を振るわれる。
 さて、話は変わって、梁山泊の頭領・病関索の楊雄は、重陽の節句にあたって宋江が頭領たちに下山を許していたので、彼もまた山を下りて景色を眺めて楽しんでいた。ぶらりとある居酒屋に入ると、なんだか騒がしい。店の男に聞くと、蔡衙内がこういういきさつから劉慶甫を殴っているのだという。楊雄はその騒ぎの中に飛び込み、蔡衙内を撃退して劉慶甫を救う。劉慶甫は楊雄に礼を言うが、このあともし蔡衙内に会ったらと思うと気が気でない。そこで楊雄は、もし何かあれば梁山泊に言いに来い、そうすれば宋江兄貴がなんとかしてくれるだろう、と助言して去る。
 劉慶甫と李幼奴は、蔡衙内に出会わないように小道を選んで進むことにする。そして、万が一蔡衙内に会って二人が離れ離れになり、再び会ったときに互いに確認できるようにと、李幼奴は夫に棗の櫛を手渡す。そうして進んでいくと、思いきや蔡衙内に出くわしてしまい、李幼奴はさらわれてしまう。困り果てた劉慶甫は、楊雄に言われたとおり、梁山泊の宋江に助けを求めに行くことにした。


★第二折★  正末:李逵
 梁山泊には、下界で楽しんできた頭領たちが次々に帰還していた。そこに劉慶甫が、妻がさらわれた!と訴えてくる。事情を聞いた宋江は、彼の妻を救い出すことにし、頭領の誰かを派遣することにする。と、遅れて山児李逵が帰ってきて、劉慶甫の話を聞く。李逵は自分が行くとその役を買って出る。宋江から暴力沙汰を起こさぬよう言い含められ、李逵は物売りに身をやつして下山する。宋江はさらに魯智深も派遣して李逵を助けさせることにした。


★第三折★  正末:李逵
 蔡衙内は李幼奴をさらって水南寨というところに囲い込んでいた。蔡衙内が酒を飲みに出かけ、李幼奴が嘆いていると、門の外で物売りの声がする。門を開けて品物を見せてもらっていると、その中にかの棗の櫛があった。李幼奴はびっくりして物売りに事情をたずねた。物売り、すなわち李逵は、相手が劉慶甫の妻の李幼奴であるかを確認しながら事情を明かしていく。そこに蔡衙内が帰ってきて李逵を見つけ、罵りながら李逵を殴る。宋江の言いつけを守って最初こそ我慢していた李逵だったが、もとより烈火のような気性の持ち主なので、堪忍袋の緒を切らして蔡衙内をこてんぱんにやっつける。蔡衙内はかなわじと逃げて行き、李逵は李幼奴を伴って去っていった。


★第四折★  正末:魯智深
 蔡衙内は自分が持っている寺に逃げ込む。一安心して、寺の小坊主に部屋の掃除を言いつけ、早速酒を飲みに出かけていった。空が暗くなってくると、この寺に魯智深が宿を乞いに来る(魯智深は李逵からあらかじめ事情を聞き、蔡衙内を待ち受けていたのだろうか)。彼は、小坊主が勧める部屋ではなく、蔡衙内のために準備された部屋に勝手に入っていってしまう。そこに蔡衙内が帰ってきて部屋に来ると、見知らぬ坊主がいる。蔡衙内と魯智深は殴りあいになり、最後には魯智深が勝ちを制する。蔡衙内は梁山泊に引かれていき、宋江が処分することになった。こうして劉慶甫と李幼奴が再会して一件落着となる。



*補:
・楊雄のあだ名は病関索。第17位の頭領。
・重陽の節句を楽しんで山に頭領たちが帰還する場面では、関勝・李俊・燕青・花栄・雷横・盧俊義・武松・王矮虎・呼延灼・張順・徐寧が登場する。この中では関勝が一番上位らしく、他の頭領を引き連れて登場し、これから宋江に見えるところだと述べている。関勝のあだ名は大刀。この11人はこの場面にだけ登場し、話の筋には全くからまない。小説『水滸伝』では宋江に次ぐ席についている盧俊義が、その他の頭領たちと全く同列に扱われているのが興味深い。水滸戯の中では、宋江と呉学究が梁山泊をとりしきる中心人物であって、盧俊義は特別扱いされていないようである。
・王矮虎が梁山泊の頭領に名を連ねるのは、この元の雑劇からのようである。他の上記10人の名は、南宋の時代に記された「宋江三十六人賛」、元に書かれた『大宋宣和遺事』に既に見えているが、王矮虎の名は現れていない。小説『水滸伝』で、矮脚虎王英が「王矮虎」と呼ばれるのは、王英の原型が雑劇の中の王矮虎だからなのであろう。
・李逵の言葉の中に楊志の名前が見える。
・李逵のあだ名は山児、または黒旋風。宋江いわく「烈火のような性格」。第13位の頭領。



*元の戯曲において、節を伴う歌を歌うのは基本的に主役(正末/正旦)のみですが、第一折では普通の女役の李幼奴が詞を歌う場面があり、この歌を聞いた蔡衙内にからまれることになります。主役以外が歌を歌う、珍しい場面といえるのではないでしょうか。

*第二折、李逵が登場すると、自分は関張劉備の三兄弟の張飛に似ている、という場面があります。確かに、「性如烈火,直似弓絃(宋江が李逵を評した言葉・第二折)」というところ、『三国志平話』『三国志演義』などに見える張飛に似ています。
そして、この李逵の性格は『水滸伝』にも受け継がれていますね。

*この劇の題名は「魯智深喜賞黄花峪」ですが、「喜賞黄花(紅葉を鑑賞する)」したのは楊雄と、関勝以下11人の頭領であって、魯智深が紅葉を楽しんでいる場面はないんですよね…魯智深が登場するのも、第二節の宋江の言葉の中と、最後の第四折だけです。


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